日付: 2020-05-23
近年、農業の現場では、担い手の高齢化が供促に進み、労働人口の減少が深刻な問題となっている。農業においては省力・軽労化の積極的な推進と、新規就労者への栽培技術力の継承等が重要な課題となっている。一方で、ドローン、ロボット技術や人工衛星を活用したリモートセンシング技術、クラウドシステムをはじめとしたICTの活用が進展しており、農業分野への適用が期待されている。ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな技術(スマート農業)を実現するため、スマート農業の目標と現状及び課題について記述する。
スマート農業の目標
高精度GPSを利用してトラクターなどの農機を自動走行させること。夜であっても、天候が悪い日であっても、人の手に頼らず、複数の機械が長時間に渡り自動で作業を続けることで、生産能力の向上が可能となる。さらに、複数の車両を自動で協調させることで、限られた作期を逃すことなく大規模な作業を展開する。
気温や土壌温度センサー、NDVIカメラなど、さまざまなセンサーを用いて作物や農地の精密なデータを取得し、得られたビッグデータから適切な栽培方法や圃場(ほじょう)管理を可能にする「精密農業」により、作物のポテンシャルを最大限に引き出して収穫量をアップする。
広大な田畑の全てのエリアに同量の水や肥料、農薬を散布するのではなく、生育状況や土壌のコンディションに応じて適量をサンプルとして抽出することでより効率的な農業が行える可能性がある。
アシストスーツによるサポートやロボットによる自動化をすること。農業は収穫や除草作業により大変な重労働を強いられます。農業従事者には高齢者が多いこともあり、肉体的負担による怪我などのリスクは深刻である。
経験豊富な農家の栽培技術や圃場管理などをデータ化し、だれでも高精度の作業ができるようにすること。また、自動走行の農機やアシストスーツを用いることで高齢者が働き続けられるようにしたり、ノウハウをデータ化することで若者などが農業に参加しやすくすることを目指します。
クラウドシステム等の導入により、消費者や実需者に農作物の生産過程や商品の詳細な情報と安心・信頼を届けること。トレーサビリティーと透明性の向上により、作物のブランドストーリーを創造して、商品価値を高めるといった高付加価値戦略への応用も期待されている。
① ドローンの導入における防除作業省力化の実現(日本)
岐阜県の水田ではドローンによる農薬散布により、より短期間に広範囲に農薬散布が可能となった。従来実施していた動力噴霧散布機による防除は、
① 労力を要する(ホースを引きながら移動、薬剤散布の ため重労働)、
②中山間地域ではほ場枚数が多く防 除作業が困難、
③1日当たりの防除可能面積に限り があり、適期防除が行えない等の課題があった。
そこで、防除作業の省力化を目的に、平成30年度に、 農薬散布用ドローンを1台導入した。
農薬散布用ドローンの活用により、1日当たりの防 除面積が増加し、適期防除が可能となった。1日当たりの防除面積は拡大し、導入前は140ha/日だった物が導入後に500ha/日となり、作業効率が約訳4倍程度カイゼンした。また、防除作業に要ずる時間も軽減され、導入前は20日が導入後には6日にカイゼンされた。
② 水田の水管理システムの導入による水田の水管理作業の省力化(日本)
千葉県の水田では、給水バルブとは排水口にインターネット通信機能とセンシング機能を付加した制御装置を追加することで、水田の給排水を遠隔及び自動で制御できるシステムを適用した。
これにより、代かきから収穫 前までの約3ヶ月間の水回りの作業回数35回から1回に大幅に削減でき、省力化を図ることができた。設定水位になると自動で給水が停止するので節水効果が得られる。
③ オールインワンIoTパッケージ「FARMOBILE PUC」(アメリカ)
アメリカ合衆国、カンザス州に拠点を構えるFarMobile(ファーモバイル)が提供する 「FARMOBILE PUC」はセンサーと通信機器を備えた小さいボックス型の機器で、トラクター等の農業用車両にインストールすることで、走行時にデータを収集し、リアルタイムでクラウド上のデータベースに送信する事が可能。データはダッシュボード上でマネジメントに利用できるばかりでなく、データの所有権は農家に属し、そのデータをFarmobileが用意する流通市場で販売することも可能。
一次産業に属する農家をデータ企業に転換し得るのはIoTの特徴の1つである。
④ LED光源による最適光源レシピ開発
オランダではPhilips社と環境制御メーカーであるPriva社と温室ハウスメーカーであるVan der Hoeven社等のコラボによって、施設園芸(太陽光利用型・植物工場)/完全閉鎖(人工光)型・植物工場におけるLED光源への切り替えが積極的に推進されている。
100社以上の生産者(苗生産も含む)との実験栽培 を通じて、各品種・地域・栽培方法に関する世界中のデータを蓄積することが可能。
完全閉鎖(人工光)型では、10数社と実験栽培に取り組み、省エネや収量増、 労働コスト削減などの効果測定を実施。葉野菜だけで なく、イチゴ・トマト・キュウリ・パプリカなどの果実類を対象に試作研究が行われている。
スマート農業を実現するためには製品・サービスの導入が必要となるが、多大な費用がかかるため、規模の小さな農家では、導入が困難となることが多い。しかし、リースでの導入によってコストを削減したり、導入費用の一部が補助される制度を利用してすることも可能である。
さらに、農業経営コストの低減に役立つ機械を新たに製造するベンチャー企業等は、農林漁業成長産業化支援機構から出資を受けることもでき、スマート農業技術の低価格化が期待されている。
どんなに優れた技術が開発されても、実際に現場で活用されなければ意味が無く、日本の農業界は特に高齢者が多いため、最新技術の導入に消極的なケースも少なく無い。
日本政府は2025年までに、農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践することを目指し、農業者の事例紹介等を行うスマート農業推進フォーラムや、農業者・民間企業・研究機関が参加するマッチングミーティングの開催など、スマート農業普及のために様々な取り組みを展開している。